「子どもが寝ている間、ずっと同じ姿勢で首を固定して抱っこしていたんです」
「仕事では歯科衛生士なので、患者さんの口の中を覗き込んでいる時間が長くて」
そして、少し笑いながら、
「本当は料理が嫌いなんです。一瞬でなくなるものに時間をかけるのが苦痛で……」
先日、2歳のお子様と一緒に来院されたお母さんが、カウンセリングの中でそんな話をしてくださいました。
首や肩がつらいというご相談でしたが、お話を聞いていくと、その背景には育児と仕事の両方で、身体を休ませる時間がほとんどない生活がありました。
子どもが寝たら、自分は動けない

2歳のお子様が、お母さんの肩を枕にして眠ってしまう。
起こしたくないので、そのまま1時間、長いときには2時間ほど同じ姿勢。
首を少し傾け、肩を上げた状態のまま動けなくなります。
大人が普通に1〜2時間同じ姿勢で座っているだけでも身体はつらくなります。
そこに約2歳のお子様の体重が加わり、しかも「起こさないように」という緊張まで加わります。
お母さんにとっては日常の一コマなのですが、首や肩にとってはなかなか大変な仕事です。
そして子どもが起きれば、抱っこ、家事、食事、お風呂。
育児が終わったら休憩、というわけにはいきません。
歯科衛生士の仕事も、首や肩には負担がかかります

さらに、この患者様は歯科衛生士として働いています。
歯科衛生士さんの仕事は、患者さんの口の中を細かく確認しながら作業するため、
- 頭を前に出す
- 首を傾ける
- 肩を少し上げる
- 中腰になる
- 同じ場所を集中して見続ける
といった姿勢になりやすい仕事です。
育児で首を固定する。
仕事でも首を固定する。
一日の中で、首や肩の力を抜ける時間がかなり少なくなっていました。
ご本人は、
「まあ、いつものことなんですけどね」
と笑っていました。
でも、身体を確認してみると、首や肩だけを見るわけにはいかない状態でした。
鏡を見ると、身体の使い方にも左右差がありました

立った状態を一緒に確認すると、肩の高さには左右差があり、体重のかけ方にも偏りがみられました。
無意識のうちに、左脚へ体重を預けるように立っています。
これは、
「肩の高さが違うから悪い」
「骨盤が歪んでいるから治さなければいけない」
という単純な話ではありません。
人の身体は、仕事や育児、その日の疲れによって使い方が変わります。
大切なのは、どこか一か所だけを悪者にするのではなく、今どこに負担が集中しているのかを見ることだと私は考えています。
この患者様の場合も、首や肩だけではなく、肩甲骨まわり、背中、骨盤周辺、臀部まで確認しながら施術を進めました。
「料理、本当は嫌いなんです」

施術をしながら、育児の話になりました。
そこで出てきたのが、
「料理、本当は嫌いなんです(笑)」
という一言でした。
理由を聞くと、
「時間をかけて作っても、一瞬でなくなるじゃないですか。あれが苦痛で……」
とのこと。
私は思わず笑ってしまいました。
そして、
「別に料理が好きじゃなくてもいいですよね」
という話になりました。
子どもがいると、どうしても
「ちゃんとした食事を作らなければ」
「家をきれいにしなければ」
「子どもに優しくしなければ」
「仕事もしっかりやらなければ」
と、やることが増えていきます。
もちろん、子どもの健康や安全は大切です。
でも、毎日すべてを100点でやり続けるのは簡単ではありません。
真面目な人ほど、
「これくらい普通だから」
「みんなやっているから」
と、自分の疲れを後回しにしてしまうことがあります。
身体の話を聞くつもりで始まったカウンセリングですが、こうした何気ない本音を聞けることも、私はとても大切だと思っています。
子ども連れだから、整体に行けない

小さなお子様がいる方から、
「整体に行きたいけれど、子どもを預けられない」
という話をよく聞きます。
当院では、お子様と一緒の来院も歓迎しています。
この日も、お母さんが施術を受けている横で、お子様がお絵描きをしていました。
しばらくすると鼻水が出て、
「ママ〜」
とお母さんのところへ。
施術を中断して鼻を拭いて、また遊びに戻る。
静かな施術室とは少し違いますが、私はこういう時間も嫌いではありません。
小さな子どもがいれば、予定通りにいかないのが普通です。
泣くこともあります。
途中でママのところへ来ることもあります。
トイレに行きたくなることもあります。
それで大丈夫です。
「子どもを連れて行ったら迷惑かな」
と心配する必要はありません。
歯科衛生士さんだからこそ分かる「施術者による違い」
この日は、仕事の話でも盛り上がりました。
患者様は歯科衛生士さんなので、
「歯石を取ってもらうときって、担当する人によって全然違いますよね」
という話になりました。
強く痛みを感じることもあれば、
「え?もう終わったんですか?」
というくらい負担を感じないこともある。
同じ道具を使って、同じような作業をしているように見えても、細かな力加減や手の使い方には違いがあります。
これは整体にも似ているところがあります。
強く揉めばいいわけではありません。
痛いところだけを押せばいいわけでもありません。
私は施術するとき、
「どこが痛いか」
だけでなく、
「なぜそこに負担が集まっているのか」
を見るようにしています。
首がつらければ、首だけ。
お尻がつらければ、お尻だけ。
というよりも、立ち方や身体の使い方まで含めて確認していきます。
施術後に「視界が明るくなった」と話してくれました
施術後、身体を動かして確認していただくと、
「視界が明るくなった感じがする!」
そして臀部を動かしながら、
「お尻にあったゴリゴリした感じがなくなった!」
と驚かれていました。
もちろん、身体の感じ方や施術後の変化には個人差があります。
一回の施術ですべてが解決するわけでもありません。
それでも、施術前には当たり前になっていた身体の重さや動かしづらさに気づき、
「こんなに力が入っていたんですね」
と感じてもらえることがあります。
私は、そうした瞬間を見るのがこの仕事の好きなところです。
育児中の身体は「休めば終わり」にならない
育児中の首や肩のつらさが難しいのは、原因になっている生活そのものを簡単にはやめられないことです。
「抱っこをやめてください」
と言われても無理です。
子どもが眠ったら抱っこすることもあります。
仕事もあります。
家事もあります。
だからこそ、
「二度と負担をかけない身体にする」
というより、
負担がかかりながら生活しても、できるだけ回復しやすい状態をつくる
ことが現実的だと考えています。
状態によっては、最初は少し間隔を詰めて身体を確認し、その後は生活に合わせて間隔を空けていくこともあります。
必要な回数や頻度は、その方の症状や生活環境によって違うため、実際に身体を確認したうえで相談しながら決めています。
お母さんである前に、一人の人間です

今回、私が一番印象に残ったのは、
「料理、本当は嫌いなんです」
という言葉でした。
首や肩の話よりも、むしろそちらかもしれません。
育児をしていると、
「お母さんなんだから」
という役割が、一日のほとんどを占めてしまうことがあります。
でも、お母さんである前に、一人の人間です。
料理が嫌いでもいい。
疲れる日があってもいい。
子どもと少し離れたいと思う日があってもいい。
身体がつらくなったときくらいは、
「自分のための時間」
を作ってもいいのではないでしょうか。
当院が、身体を整えるだけでなく、
「今日はちょっと疲れました」
「実はこんなことが嫌なんですよ」
と、肩の力を抜いて話せる場所であればいいなと思っています。
小さなお子様がいて、首や肩、腰のつらさを我慢している方へ。
「子どもがいるから整体には行けない」
と思わず、どうぞ一緒にいらしてください。
泣いても、途中でママのところへ来ても大丈夫です。
育児も仕事も続いていきます。
だからこそ、ときどき自分の身体にも目を向けてあげてください。
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