「大人になったら、側弯症はもう進行しないと思っていました」
先日、当院にこのようなご相談がありました。
数年前に病院で側弯症と診断され、そのときの角度は約40度。
ところが最近あらためて検査を受けたところ、側弯の角度が約60度まで進んでいたそうです。
病院では手術も選択肢として説明され、
「できれば手術は避けたい」
「大人になってからも、こんなに進むことがあるの?」
「60度というのは、かなり悪い状態なの?」
と不安を感じて来院されました。
側弯症というと、学校健診などで見つかる子どもの病気というイメージが強いかもしれません。
しかし、側弯症の中には骨の成長が終わったあとも変化していくものがあります。
この記事では、
側弯症の40度・60度とはどのくらいなのか。
大人になってからも進行することがあるのか。
何度くらいから手術が検討されるのか。
そして、成人の側弯症に対して整体やピラティスでは何ができて、何ができないのか。
実際にいただいたご相談をもとに、順番に解説していきます。

そもそも側弯症の「40度」「60度」とは?
側弯症の程度を確認するときに使われる代表的な指標が「Cobb角(コブ角)」です。

背骨のレントゲン写真を正面から見て、カーブの上端と下端にある椎骨の傾きをもとに角度を測ります。
一般的にCobb角が10度以上ある場合に側弯症と診断されます。
つまり、
「40度曲がっている」
「60度曲がっている」
というのは、身体を見た印象だけで決めているわけではなく、レントゲン上で測定した背骨のカーブの大きさを表しています。
日本側彎症学会でも、Cobb角10度以上を側弯症としています。
側弯症40度はどのくらい?
40度という数字を聞いて、
「40度ならまだ半分くらいだから、それほど重くないのでは?」
と思う方もいるかもしれません。
しかし、側弯症における40度は決して小さなカーブではありません。
特に成長期の特発性側弯症では、40度前後になると手術の可能性について説明されることがあります。
ただし、40度になったら全員が手術をするという意味ではありません。
側弯の場所や形、年齢、骨の成長が残っているか、今後進行する可能性、症状などを含めて判断されます。
日本側彎症学会では、成長期の側弯症について、カーブの大きさや場所によって40~50度以上が手術療法を考える一つの目安として示されています。
成人の場合はさらに考え方が変わります。
角度だけを見るのではなく、
痛みがどの程度あるのか。
歩行に支障があるのか。
神経症状があるのか。
身体全体の前後・左右のバランスはどうなのか。
日常生活にどの程度影響しているのか。
こうした要素を含めて治療方針が検討されます。成人脊柱変形について、済生会横浜市東部病院も「背骨の変形だけでなく患者さんの症状や生活環境など」を考慮して治療法を検討すると説明しています。

60度まで進行したら、かなり悪い状態なの?
60度は大きな側弯です。
しかし、
「60度=今すぐ必ず手術」
と単純に決めることはできません。
特に成人の場合、数字だけでなく、これまでどのように変化してきたのかを見ることが重要です。
今回ご相談いただいた方の場合、以前は約40度だったものが、その後約60度になっていました。
ここで重要なのは「60度」という現在の数字だけではありません。
「以前より20度ほど大きくなっている」という経過です。
Cobb角には測定者や撮影姿勢などによる数度程度の測定差が生じることがあります。それでも40度から60度という差が確認された場合には、単なる測定誤差と考えて自己判断せず、脊椎を専門とする医師に経過を確認してもらうことが大切です。
大人になったら側弯症は進行しない?
これは今回のご相談でも、もっとも驚かれていた部分です。
「成長期が終われば、背骨も成長しないのだから側弯症も止まる」
と思われがちです。
実際には、成人後も進行する側弯症があります。
慶應義塾大学病院では、骨の成長が終了したあとでもCobb角40度を超える側弯症について、年間0.5~1度程度進行することがあると説明しています。
もちろん、すべての人が同じ速度で進行するわけではありません。
何年たっても大きな変化がみられない方もいます。
大切なのは、
「大人だからもう進まない」
と決めつけないことです。
大人の側弯症には大きく分けて2つのタイプがある

成人の側弯症を考えるときに知っておきたいのが、「昔からある側弯」と「大人になってから生じる側弯」は同じではないということです。
一つは、子ども・思春期に発症した側弯症が成人後も残っているタイプです。
もう一つは、それまで大きな側弯がなかった人に、加齢による椎間板や椎間関節などの変化が重なって生じる「変性側弯症」です。
特に中高年以降では、椎間板の変性、脊椎の関節の変化、骨粗鬆症、脊椎のすべりなどが重なり、身体を支えるバランスそのものが変化していくことがあります。
そのため、
「学生のころに側弯症と言われたことがある人」
と、
「60代、70代になってから身体が傾いてきた人」
では、同じ「側弯症」という言葉でも状態が異なる場合があります。
なぜ40度から60度まで進行することがあるの?
側弯症が進行する理由を「筋力が弱いから」と一つだけで説明することはできません。
成人では、背骨そのものだけでなく、椎間板、関節、骨密度、身体全体のバランスなど、さまざまな要素が関係します。
また、もともと大きなカーブが残っていた場合には、成人後も少しずつ変化することがあります。
一方、加齢に伴う変性側弯症では、椎間板や関節の左右差などから背骨の配列が変化していくことがあります。
ですから、
「腹筋が弱かったから曲がった」
「姿勢が悪かったから60度になった」
というような単純な話ではありません。
ご本人が努力をしなかったから進んだわけでもありません。
側弯症の経過は人によって大きく異なります。
40度・60度になると見た目はどう変わる?

「側弯症40度 見た目」
「側弯症50度 見た目」
と検索される方も多いようです。
しかし、Cobb角だけから見た目を決めることはできません。
同じ40度でも、胸椎が大きく曲がっている人と腰椎が曲がっている人では外見が違います。
また側弯症では、背骨が単純に横へ曲がるだけではなく、椎骨の回旋、つまり「ねじれ」も伴います。
そのため、左右の肩の高さ、肩甲骨の位置、ウエストラインの左右差、骨盤の高さ、前屈したときの肋骨や腰部の盛り上がりなどに違いがみられることがあります。
日本整形外科学会も、肩の高さの違い、肩甲骨の突出、腰の高さの非対称、胸郭の変形、前屈時の肋骨や腰部の隆起などを側弯症でみられる身体的特徴として挙げています。
反対に、角度が大きくても服を着ているとほとんど分からない方もいます。
ですから、鏡で身体を見るだけで「何度くらい」と判断することはできません。
痛みがないなら放っておいてもいい?
ここも注意が必要です。
側弯症は、角度が大きくても必ず痛みが出る病気ではありません。
そのため、
「60度もあるなら、ものすごく痛いはず」
とも限りません。
日本側彎症学会も、手術が検討されるような大きな角度になっても痛みなどの症状が出ない場合があると説明しています。
一方で成人では、腰痛や背部痛だけでなく、変性によって神経が圧迫されると、脚の痛みやしびれ、歩きにくさなどが問題になることもあります。
「痛くないから大丈夫」
だけで判断するのではなく、以前よりカーブが進んでいる場合には定期的な医学的評価が必要です。
側弯症は何度から手術になる?
これは非常によくある質問ですが、
「○度を超えたら必ず手術」
という一本の線があるわけではありません。
特に成人ではなおさらです。
成長期の特発性側弯症ではCobb角40~50度前後が手術を検討する一つの目安になります。
しかし成人では、角度だけではなく、進行の程度、腰痛や脚の症状、歩行能力、身体全体のバランス、年齢、骨の状態、生活への影響などを含めて検討されます。
今回のように、
「以前40度だったものが60度になった」
という場合には、
「手術をしたくないから病院には行かない」
ではなく、
「なぜ手術を提案されているのか」
をまず担当医に確認することが大切です。
進行を止めることが目的なのか。
神経症状への対応なのか。
痛みや歩行障害への対応なのか。
身体全体のバランスの問題なのか。
同じ手術の提案でも、その理由によって意味は変わります。
手術を勧められたら、必ず受けなければいけない?
手術を提示されたからといって、その場ですぐ決断しなければならないわけではありません。
一方、
「怖いから考えないようにする」
のもおすすめできません。
大きな脊椎手術ですから、不安になるのは当然です。
分からないことがあれば、
なぜ手術が必要なのか。
今すぐ必要なのか。
経過観察という選択肢はあるのか。
手術をしなかった場合には何が予想されるのか。
どのような手術を行うのか。
担当医に一つずつ確認してみてください。
納得できない場合には、側弯症や成人脊柱変形を専門とする医師にセカンドオピニオンを求める方法もあります。
整体で側弯症60度を真っすぐに戻せる?
ここは、はっきりお伝えしておきたいところです。
整体で60度の側弯を真っすぐに戻すことを目的にはできません。
成人では骨格が成熟しており、運動療法についても骨そのものの変形を大きく矯正することは通常期待されていません。
成人脊柱変形のリハビリテーションでは、主な目的は痛みや身体機能、姿勢制御、生活の質などを改善・維持することです。
当院でも、
「背骨を真っすぐにします」
「側弯症を治します」
という説明はしていません。
それでも整体でできることはある

骨の角度そのものと、今感じている痛みや動きにくさは、必ずしも同じものではありません。
側弯症がある方を実際にみていると、
「右の腰だけいつも張る」
「立っていると背中が疲れる」
「身体をひねりづらい」
「片側ばかりに力が入る」
など、背骨そのものとは別に筋肉や関節の負担が重なっていることがあります。
当院の整体では、側弯そのものを矯正しようと強い力を加えるのではなく、まず現在どこに負担が集中しているのかを確認します。
そのうえで、過度に緊張している筋肉や動きにくくなっている部分に対して施術を行い、
「少し立ちやすい」
「歩いたときの腰の負担が減った」
「身体を動かしやすい」
という状態を目指します。
ここで大事なのは、
「角度を治すこと」
と、
「今の身体を使いやすくすること」
を分けて考えることです。
ピラティスでは「真っすぐにする」より「使える身体」を目指す
側弯症を見ると、
「左右差があるから、左右を完全に同じにしなければ」
と考えたくなるかもしれません。
しかし、成人で構造的な側弯がある場合、左右を無理やり同じ形にすることが目的ではありません。
当院のピラティスでは、呼吸、体幹、股関節、肩甲帯などを使いながら、
今の背骨の状態でどうすれば身体を支えやすいか。
どこか一か所だけに負担を集中させずに動けるか。
立つ、歩く、しゃがむといった日常動作をどう行うか。
という視点で運動を行います。
成人脊柱変形のリハビリテーションでも、背部・腹部の筋力、姿勢制御、日常動作に合わせた神経筋再教育、active self-correctionなどが用いられています。
一方で、成人に対する運動療法の研究はまだ十分とはいえず、「この運動をすれば側弯が治る」と言えるものではありません。
側弯症だから腹筋・背筋を鍛えればいいわけではない
インターネットでは、
「側弯症には腹筋」
「背筋を鍛えれば進行を止められる」
「このストレッチで真っすぐになる」
といった情報も見かけます。
しかし側弯症のカーブは一人ひとり違います。
さらに成人では、脊柱管狭窄症、椎間板の変性、骨粗鬆症などが一緒に存在していることもあります。
そのため、他の人には問題のない運動でも、腰痛や脚の症状が強くなることがあります。
特に60度前後の大きな側弯や、すでに医師から手術について説明を受けている状態であれば、自己流で強い運動を始めるより、まず医学的な状態を確認することをおすすめします。
こんな症状がある場合は整体より先に病院へ
側弯症がある方でも、すべての症状を背骨の曲がりのせいにすることはできません。
脚に急に力が入りづらくなった、両脚のしびれや麻痺が強くなってきた、歩行が急に困難になった、排尿や排便の感覚がおかしい、安静にしていても非常に強い痛みが続くなどの変化がある場合は、整体ではなく医療機関での評価を優先してください。
また、以前より明らかに身体の傾きが強くなった場合も、一度レントゲンで現在の状態を確認することが大切です。
「40度だったから、もう大丈夫」ではない
今回ご相談いただいた方は、
数年前には約40度。
その後の検査では約60度。
という経過でした。
大人になってからここまで変化するとは思っていなかったそうです。
このご相談から改めて感じるのは、
「何度あるか」
だけではなく、
「以前と比べてどう変わっているか」
を見ることの大切さです。
40度だから必ず進むわけでもありません。
60度だから必ず手術というわけでもありません。
しかし、成人になったから絶対に進行しないわけでもありません。
だからこそ、ある程度大きな側弯を指摘されている方は、自覚症状だけで判断せず、必要に応じて整形外科で経過を確認してください。
まとめ
側弯症は、骨の成長が終われば必ず進行が止まるわけではありません。
特に、もともと大きなカーブがある場合や、加齢による脊椎の変化が加わった場合には、成人後も変化することがあります。
40度や60度という数字は重要ですが、それだけで治療方法が決まるわけではありません。
大切なのは、
現在の角度。
以前からどれくらい変化したのか。
痛みやしびれなどの症状。
歩行や日常生活への影響。
身体全体のバランス。
これらを一緒に確認することです。
当院では、側弯そのものを「真っすぐに治す」ことを目的とした施術は行っていません。
病院での診断や画像検査を大切にしながら、筋肉や関節にかかっている負担を整え、現在の身体でできるだけ動きやすく生活していくための整体・ピラティスを行っています。
「手術を勧められたけれど、まず自分の状態を整理したい」
「病院には通っているけれど、腰や背中のつらさについて相談したい」
という場合には、レントゲンやMRIの結果、医師からどのような説明を受けているかも含めてお聞かせください。
病院で確認すべきことと、当院でお手伝いできることを分けながら一緒に考えていきます。
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